一家に一本、ペンライト(?)(福島由衣)
■オタクのあいだでペンライトが非常灯代わりになる、というのはかなり有名な話
ペンライト。それはスイッチを入れると光る棒。
主にオタクと分類される人間が、ライブ・コンサート・舞台などで、好きなアイドルやキャラクターに向けて振る物です。応援のために。ペンライトの光の色は切り替え可能なものがほとんどで、推し(自分が応援している対象)のテーマカラーを灯しているとき、おそらくほとんどのオタクは非常にしあわせな気持ちになります。
2020年1月、私は友人の山崎さん(仮名)と大好きな舞台の新作公演へ行きました。
私たちもオタクで、最近はざっくり言うと、若手舞台俳優にはまっています。そしてその日、腹が減っては推しを推せん!(=好きな人を応援することを“推しを推す”と言います)と、おひるごはんを食べていたときです。
「あ。今日、新しいペンライト買わな」
その山崎さんの一言が、この記事を書く発端になったのでした。
ここまでの文章を読んで、いや地震や防災と関係ないやん……? と困惑した方がいらっしゃると思います。でも! 関係あるので、もうちょっと導入を読んでください……、すみません……。
そう、それで、我々が行っている舞台には、公演シリーズごとに限定デザインのペンライトがあるのです。山崎さんは、自分が観劇に行ったシリーズは欠かさず限定ペンライトを購入しています。そして続く彼女の言葉。
「毎公演、ペンライトは買わないとなぁ。揃えたいし、それに、急に地震や何やが来たときにも、役に立つからなぁ」
……これです。これなんです。
実は、オタクのあいだでペンライトが非常灯代わりになる、というのはかなり有名な話。TwitterなどのSNSでは、数多のオタクが、ふっと停電したときなどにペンライトを灯しやり過ごしている報告をいくつもあげてきました。
でも私は、今までそんなに前のめりに、ペンライトって非常時に役に立つんだ! すごいー! と思ったことはありませんでした。なんでも活用できるんやなぁ、と感心していた程度でした。
しかし、この『リメンバー117』という阪神・淡路大震災25年プロジェクトで、地震や防災のことを少し考えてきたからか、その日は、実際どういうふうにペンライトを非常灯として使うのか気になって。(だって私の家にもごろごろペンライトがあるので……)
山崎さんは今までに、ペンライトを緊急時に明かりとして使ったことがあるそう。
家に行って、その使用法を見せてもらう約束をしました。
■実演・ペンライトランタン
そして日を改め、お邪魔した山崎さん宅でさっそくペンライト非常灯を点けてもらいました。やり方は下記の通りです。
まず、用意するもの。
・ペンライト
山「ちゃんと電池が入ってるか、常日頃からチェックしとくんやで」
・水を入れたペットボトル
山「これを使ってな、光を拡散するんや」
・ラップ
山「めっちゃ大事やから忘れたらあかんで」
そして、手順。
・ペンライトをきゅきゅっと分解する。(ひねれば、持ち手と光源の部分が簡単に分離します!)
・ペットボトルの蓋を開けて、ラップをかぶせる。
・分解したペンライトの、光源のほうを選択。濡れ防止のラップ付きペットボトル飲み口へ、ドッキング!
するとこうなります。
消すとこうなります。
盛るとこうなります。
ネット越しではたくさん見てきたペンライト非常灯。自分もペンライトを持っているのに試したことはなかった(幸運なのでしょうが)ペンライト非常灯。
なるほど、なぜだかペンライトとペットボトルの飲み口がサイズ感ぴったりで、ちゃんと棒が自立して乗っかってくれます。ボトルに水を入れておくことでいろんな方向に光が広がっている気もします。
もしかしたら、ちい〜さな懐中電灯より、まんべんなく四方を照らせるかもしれないです。
ペンライトそのままで点灯しても明るいんですけど、ちょっと目が疲れるかも。やはり推しへの応援グッズなので光がすごく元気。テンションは上がります。
また、山崎さんいわく、「ライトの色は白じゃない方が長持ちするらしいわ」とのこと。(写真はめちゃくちゃ白を選んでしまっていますが)
なんで白じゃない方がええんかなぁ、と聞くと、「うーん、赤と緑と青、3色使って白になるからやろうな」と考えていました。そうか、光の三原色……!
はっきりとしたことは分からないのですが、私自身は色によって発光持続時間が変わるかもしれないという発想に行き当たらなかったので、そういうところを気にするのは大事かもなぁ、と思いました。非常時のライトは、少しでも長く照らしてくれたほうが安心ですもんね。
■台風、停電、スマホのバッテリーはほぼなし。
山崎さんがこのペンライト非常灯を使わざるを得なくなったのは、2018年の9月4日。台風21号が関西に上陸したあの時でした。台風21号は関西国際空港の連絡橋が損傷した原因になったり、電柱をそこらじゅうで倒したりして、本当に怖い台風だったのを覚えています。
「台風が来た日、朝はふつうに出勤しててんけど、ほんまに風が強くなってきたからすぐに帰っていいことになってん」。
当日のことを話し始めてくれた山崎さん。あまりの暴風に、これは窓ガラスやばいんじゃないか?と思い、帰宅してすぐにテープで補強したとのこと。今となっては「痕が残って、もう剥がれへんのよ……」と半笑いで話していますが、渦中の際はとにかく、ガラスが割れて飛び散らないように必死だったそう。家中の窓という窓に、しっかりテープを貼っていました。
「ほんで、ガラスの飛び散り対策したあと、午後14時くらいやったかな。いきなり家の電気が消えてん」。
夕方になって、台風が山崎さんの居住域を通り過ぎてからも、停電は続いたのだそう。スマホのバッテリーが切れそうになったのでコンビニへモバイル充電器を買いに行こうと外に出ると、辺りの光景はいつもと違っていたそうです。きっと実家や友人の家に避難しようとしているのであろう、沢山の車。きょろきょろと、電気の消えている家々を見ながら歩く人々。結局、モバイルバッテリーも売り切れで買えなかったとのことでした。そして停電の原因はどうやら、電柱が風で倒されたから、だったようです。
その夜。懐中電灯はない、スマホの充電もほとんどなくライト機能を使いたくない。真っ暗だけど、どうしたものか……と悩んだ時に、思い出したのがSNSで見たペンライト非常灯だったのです。
「今はペンライトが6本あるから、停電しても2〜3日はもつはず。しかも各部屋に最低1本は配置するようにしてる」。
ちょっと冗談めかして言う山崎さんでしたが、彼女が怪我などなく台風を乗り切れて本当によかったです。また、話を聞いていて思ったのですが、災害っていつ起こるかわからないので、スマホのバッテリーが残10%のときや懐中電灯を買っていないときに、台風や地震が襲ってくるかもしれないんですよね。しかも停電になったりする。
趣味でペンライトを持っている私たちのような人間はそういうとき、その光る棒を照明の代替品として使おうとするのでしょうが、もしかするとどんな人でも、日頃何気なく使っている物が窮地を助けてくれるのかもしれません。
個人的には、「それ会場以外で使わないのに何本も必要なの?」と家族に言われたこともあるものの、やっぱペンライトはあって損しないよ、へっへっへ、という気持ちに落ち着きました。
オタクはとにかく推しを応援したい一心で光り物を買う生き物(だと思っています)なので、この棒がいつか自分を助けてくれるかもしれないことには棚からぼたもちみたいな気分でもありますが、とりあえず私も山崎さんを見習って、各部屋にペンライトを忍ばせておきたいと思います。