何をする? 遠慮を超えたその先で。(稲澤遥樹)
いつもと違う朝…?
時刻は朝8:30。目を覚ますといつもと違う光景が天井に広がる。
「あっそっか 今名古屋なんや。よく寝たなぁ~」…寝ぼけ眼をこすりながら寝起きの動かない頭でそんなことを思った。
数日振りにしっかりとした睡眠が取れ、体がなんだか軽い。ここ数日ドタバタした日々を送っていた自分には久しぶりのゆったりとした朝となった。「よし、行こ!今日もがんばるで!」重たいスーツケースと共に朝食券を握りしめ、レストランへ。
そこでは、サラダめしというボリューム満点のご当地グルメが私の朝を歓迎していた。朝からすごいボリュームである..
私は取材の待ち合わせ場所へと向う途中、緊張と共に少しの不安と期待が心の中を多い尽くしていった。
時刻は13:03分。「こんにちは!」という挨拶と共に、取材開始である。
今回取材させていただくのは沖縄県北谷町(ちゃたんちょう)で防災アドバイザーをされている松村直子さん。
前日の公演後に挨拶に伺ったため初対面でない事もあり、私の緊張も少しの落ち着きを取り戻した。
【1】 防災アドバイザーってどのようなお仕事ですか?
松村さん:防災アドバイザーとは、北谷町(ちゃたんちょう)の防災計画の中で専門的知識を有し、防災士の資格を持っている人のことで、主な役割りとしては、役場の方に対して防災面からアドバイスするという事と、「ソフト防災」という小さいお子さんからご高齢者、そして要支援者と言われている障がいをお持ちの方や外国人の方に対して防災教育を行い、実際に実践を積み重ねていってもらって「地区」として災害に強い地区作りを行うことです。
【2】 ソフト防災とは
受け入れ体制を整えるということでしょうか?
松村さん:そうですね。行政として要支援者のケアをどれだけ迅速に行えるかですね。あとやっぱり、避難所を運営されている地元の方って日常的に外国人や要支援者の方と関わっておられないのでどうしても「距離」があります。その距離をどれだけ行政が埋められるかが大切ですね。そのためには地域と行政の「自己課題設定の線引き」が必要になります。そして、有事の際に困るのは要支援者の方ですから、「助けて下さい! 手伝って下さい!」と言いやすい社会を作っていかないといけないかなと思います。
【3】 有事の際に障がい者の方が避難を諦める事の無い社会にしたいと仰っていましたが、そう思うようになったきっかけは?
松村さん:あのねぇ。私、出身が大阪の箕面で。阪神・淡路大震災発生当時、神戸の大 学に通っていたんですよ。その時はまだ大学生 ですので、「誰かの娘」という立場なだけでした。
その後ご縁があり、数年前に沖縄に移住をしまして、その間に東日本大震災が発生しました。その時私は、お母さんになっていたんです。
つまり、もしこの時に沖縄であのような災害が発生していたら私は自分の子どもを「守らないといけない立場」になったのです。
阪神・淡路大震災の時と比べて、「守られる立場」から「守る立場」になったのです。そのときに私は障がいを持っているから自分の事を守れるかも分からへんのに子どものことも守らないといけない。
地域の人とも、引っ越して来たばっかりだったので頼れる身内もいなければ、ご近所さんともそこまで仲のよい訳でもない。
これではだめだ! 自分で勉強しないと! そう思ったのが一番大きなきっかけですね。
【4】 そのような危機感(?)からこれまでの活動に 活かせたことはありますか?
松村さん:そうですね~やっぱり私たちの障がい者と健常者の方でみえない溝があって、障がい者の方は、「他の人に『迷惑をかけてまで助けてもらうなんて…』という遠慮」があって、健常者の方も「なにかしてあげたいけど、『何をしたらいいか…』とか『逆に失礼にならないかな?』」という遠慮があるように感じます。
お互いが思い合っているのにお互いが遠慮し合って『手をつかみ合えない状況』にあると思います。だからそこの二方を私は、防災などの視点からつなぐ立場になりたいなと思い、防災士の資格を取ることでそこを埋めていけたらなと思っています。
「遠慮」ってお互いの事をよく知らないからでるものですよね?
松村さん:よく気付いてくれました! その『遠慮』をどう越えるかっていうのはどんだけたくさんの話をするか。そしてお互いの立場に立ってあげることなんです。
つまり、その人自身を知ってあげるという事です。
例えば、私が重い袋を持っているとします。その際、通りがかった人だったら「手伝ってあげたいけど 言ったらあかんかな?」となっちゃ…いますよね? でも、私という人間を知っていると「松村さんはここまではできる。だけど、ここからは難しいだろうな」っていうのが分かるんです。
後、もちろん障がい者の方の中でも、性格や持っている障がいは違いますので千差万別です。もちろん私みたいに結構言うタイプは「ちょっと手伝っていただけますか?」と言いやすいんですが、もちろんそうじゃない人もいますので、そういう人は言って断られた回数が多ければ多いほど、どんどん「言いにくい」って言う人になっていってしまうんです。
でも逆に言うと、言う前から全部助けてもらっている人は、「言わなくても助けてもらえる」のが当たり前になっている人も実際います。
【5】 根本的問題である『遠慮 』を減らすためにはどうすればいいと思いますか?
松村さん:図式で表すと分かりやすいんですが、障がい者の「本当にサポートの必要な人」と健常者の「サポートできる人」のちょうど間に介在しているのが、「ケアラーさん」なんですね。
例えば障がい者であったらヘルパーさんとかケースワーカーさんとか障がい児を見ているその子のお母さんとか。本人は障がいをもっていないけれど自分の家族など身近な人に障がい者がいる。
そうすると同じ健常者でも障がい者よりに近い人になりますよね。
そういった「健常者」と「障がい者」のどちらの事もわかる人をお互いが啓蒙し、その人を挟んでコミュニケーションを取ることによってもっと健常者と障がい者が簡単に手を結べ、協力し合えるような環境が作れたらなと思っています。
稲澤:障がい者の方と健常者の距離をもっと近づけるためには、ヘルパーさんなどのケアをしてくださる人が重要ということでしたが、少子高齢化が進むにつれその人たちの需要ってどんどん高まってくると思うのですが、なかなかその人たちの労働環境が良くならないから、就労人数がどんどん減っていると思うのですが松村さんは、どうしたら改善されると思いますか?
松村さん:そこがネックとなり、なかなかみんなが手を付けることのできていない所で、「ケアをする人」を「ケアする」制度を作っていかないといけないと思います。
また、障がいをお持ちの方のように、助けを求めなければいけない人達が、自分のできる事をはっきりと表明することであると思います。そうすることで、助ける人の命も守りつつ、助けてもらう負担を減らすということができるということを伝えていくことが大切かなと思います。
要支援者の方だから全部やってあげないと!って良く思われるんです。
特に寝たきりの人とかは「私たちにできる事ってなにもないよ」ってよく仰るんですけど、お家に取り残された時に笛を吹く力さえ残っていたら、『ここにいます!』っていうのは伝えることができますよね。
そうすると自衛隊さんたちが見つけてくれる可能性が出てくる。自分にできる最大の事がそれですっていうなら、それが彼にとって最大の自助だと思うんです。
ですので、「なにもできない」じゃなくて、「あきらめずできる事をやる」っていうことが大切で、自分のできる事をまずは見つける。どこまでできるのかを自分自身が知る。ということ。
そしてそのMAX値を下げないことが大切で、それがあなたにとっての最大限の自助であることを伝えていけたらなと思っています。
【6】 障がいをお持ちの方が各震災時、 一番不安に 感じることとはなんですか?
松村さん:大きく分けて二つあります。
1つ目は、避難行動自体です。本当に生き延びられるのだろうか?という不安です。
そしてもう一つは避難所生活に大きな不安を抱えている人がいます。もし生き延びられたとしても、避難所で生活していく時に自分に必要なものが何もなくて果たしてやっていけるのだろうか?という不安ですね。
例えば、コンセントにつながっていないと命を繋ぐのが非常に難しい人であったり人工透析を4日以内にしないと命の危険性がある人だったりなどの特別な事情を持っている人は特に避難所生活に大きな不安を抱えていると思います。
後は、自閉症を子どもさんがお持ちのご家族の方。
やっぱり環境が変わってしまうとその子にすごくストレスがかかってしまって、症状が表に出てしまう。そうすると周りからの目線なども気になり二次的なストレスがかかってしまうんです。
そういった人に対してどういった対応をするのかというのがきちんと決まっていないので余計に不安になってしまい、「逃げない」「車中泊にする」という選択を余儀なくされています。
【7】障がい者の方にとってのトイレ問題とは?
稲澤:阪神・淡路大震災の際にもあるおばあちゃんが、トイレの行列に並ぶ間、立っているのがしんどいのでトイレに行きたくない。だから水分補給をせずに脱水症状になってしまい、さらに体調が悪くなったという話は有名ですが、障がい者の方にとって避難所のトイレ問題というのはどのような点が気がかりですか?
松村さん:そうですね。一定以上のスペースがないと用を足せない人もいますし、特殊なトイレじゃないといけない人もいます。
でもそこを健常者の方に全部まかせてっていうのは無理なことだと思っています。でもトイレは不可欠。
じゃあそのためにはどのようにしたらいいのかというと、自分にとって何が必要なのかということをしっかりと知ること。
そうじゃないと言うこともできないし、備えることもできない。そしていざとなったときに、オストメイトトイレじゃないということで、色んな避難所を回されて、悪循環にはまっていくということになりかねません。
でも分かっていれば行政に言って要支援者名簿に入れてもらい、普通の避難所やなくて福祉避難所ことができますよね。
健常者の方から聞くのはどうしてもハードルが高いので、障がいをお持ちの本人や、その家族の方が一言おっしゃっていただけることで、行政や個人は答えが出てくるんです。
そこが現状の問題点かなと思っています。
【8】私達、が日頃・ そして有事の際に出来ることとは何でしょうか?
稲澤:先ほど、お互いが言いやすい環境を作ることが大切とおっしゃっていましたが、それ以外に日常そして有事の際にできる事って具体的にはどのようなことでしょうか?
松村さん:有事の時にできる事を見つけるためには、日常をやっておかないと無理です。
例えば、目の前でバタッと人が倒れた時にその人ができる行動ってやっぱりCPR(心肺蘇生法:Cardio Pulmonary Resuscitation)を学んだことがある人とない人では初動が違うと思うんです。やったことがある人はスッと動くことができる。
でも学んだことのない人の中には、パニックを起こされる方がいらっしゃるほど何をしたらいいのかわからないものです。
それと同じで、その対象がどなたであったとしても事前の知識を持っておくことが大切なことだと思います。
知識・技術共にたくさんあればできる事がたくさん増えます。
ストックが多い人間になっておくと目の前でどんなことが起きたとしても、手を差し伸べられることができます。
ですので防災士の方は、自分に特化した何かスキルがある防災士であってほしいなと思っています。
例えば土木ををやってらっしゃる方なら、土砂災害に対処できる勉強をすればいいと思っています。
そうすれば、「液状化といったらあの人!」という風になることで、いざといった時も「困った!でもあの人がいる!」という風になり、理解してくれると思います。自助と事前準備ですね。これが非常に大きいかなと思っています。
【9】障がいをお持ちの方達の目線からみて一番知ってほしいこととはなんですか?
稲澤:障がいをお持ちの方の目線から教えていただきたいのですが、今様々なことがあると思うんですけど、防災に限らず今一番知ってほしいことって何ですか?
松村さん:私、よくお子さん対象の防災イベントをやるんです。その時に子どもってめちゃくちゃ素直なんで、「手どうしたん?」ってめっちゃくちゃ聞いてくるんですよ。
そしたらその子たちのお母さんたちが「聞いたらダメ」ってやるんです。『いや、聞いていいんです!』だって本当のことだし、子どもってしがらみも遠慮もなく、本当に好奇心で聞いてくるので、「あれ?自分と違う!どうしたの?」って聞いてきてくれるんです。
それを親御さんがダメって言ってしまうと、初めて子ども達はこれは聞いてはいけないことなんだって学習していっちゃうんですよ。小さいころみなさん聞いたことありませんか?
実際、私は幼いころアフリカ系アメリカ人の方を見た時に、母に言ったんです。「お母さん見て!あの人めっちゃくちゃ日焼けしてる!」って。
そう言うと母は、「そんなこと言ったらダメ」って言ったんです。え?これって言ったらダメなことなの?肌の色が違うことを口に出してはいけないんだ。ってその時私も刷り込まれていたんだと思います。
でも今ってそれは関係ない時代でしょ? なんで障がい者の人だけそんなに特別扱いするのかな?って思っています。
他にも初めてテレビにニューハーフの人たちが出てきた時に、「え?同じ障がいの部類に入っているのに、なんであの人たちはテレビに出てみんなの人気者になって、誰もそのことについて遠慮もなく触れている。いや、私も言ってもらってもいいですよ!」って思ったんです。
だからそのタブー視する社会っていうのをもうそろそろやめてもいいのかなと思っています。
2020年には東京オリンピック・パラリンピックも決まって今、色々な障害をお持ちの方が努力の上にとても輝いていて、健常者の方がこの人たちすごい!って思えるような方がたくさんいます。
例えば絵画の才能がある人や、歌がとっても上手い人なんかもいます。やっとそういうムーブメントが起きてきているので、「障がい」で人を見るんじゃなくて、その人が持っている「中身」でその人を見てほしいなと思います。
スキルを見て、尊敬に値する人ってたくさんいると思うのでそのような人を見つけることができる社会であってほしいなと思います。それがさっき言ったように自分の弱さを見つけることのできる社会になるのではないかなぁと思います。
【10】私はどんな防災士になればよいと思いますか?
稲澤:今私は夏から加入したリメンバー117というグループで記事を書いています。一昨年度、私は防災士の資格を取り、様々な防災講習や防災訓練に参加してきました。
もちろんどれもとても実のある経験でした。
しかしどれも内々でやりすぎじゃないかと感じていまして、もちろん最初は今までなかなか絡めなかった防災の知識を持っている人とたくさん話すことができ、学ぶことができて嬉しかったのですが、いつのまにか「あれ?これで本当に有事の際、大丈夫?」って思い始めまして、
本当に有事の際何が必要なのだろうか? と考えたときに、やっぱり行政との連携だったり、避難所運営はどうあるべきかなどをしっかりと話し合うことが大切だと思っていて、じゃあ今のままじゃだめだよね、こんな状態のままなら本当に防災士っているのかな?いらないんじゃないのかな?って思っています。
松村さんは先ほど専門的な知識を得ることが大切と仰っていたのですが、他に大切なことってあるでしょうか? 私は「どのような防災士」になればいいと思いますか?
松村さん:そうですね。防災士って知っている人しか知らない資格じゃないですか? でも消防士とか救急救命士とか同じ「命」をテーマにしている職業の方って子供たちの「あこがれ」じゃないですか? 何が違うんでしょうか?
もちろん制度的なところもあるのですが、人間ってなにか起こるとやばいって思って考え方が変わるんですけど、普段は「まさか自分が 」って思ういわゆる正常性バイアス(自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう人の特性のこと)が働いています。
あれがあるうちは普段人って命を意識して生きていないです。
でも昨今の災害の様子などを見ているといつ自分が被災者になるのかわからない状態ですよね。
ですので本当はいつも命の事を考えていないといけないです。だからこそ防災士が憧れの職業(資格)にならなければ人の意識を変えることはできないと思います。
小さい子が「僕も防災士になりたい!」そう言ってもらえるような防災士を君には目指していってもらいたいなと思っています。それがどんなジャンルになるのかは、自分の得意とする分野や、自分が「防災」というツールを通じて追い求めてみたいものによって違うと思います。
私はたまたま障がいをもって生まれたのでその「防災」と「障がい」を通じて結局人々が命を大切にして生きていける社会づくりというものを目指しているんです。
それが多分私のなりたい防災士なんだと思っています。
防災士という資格は言ってしまえばただの折り紙なので、君が人々に対してどのようなアプローチをしていきたいのか? ということを考える上で大切なことは、「人のために」「みんなの命を守るために」って思いつづけることだと思いますし、それをやっていくうちになりたい防災士になっていると思います。ですので焦らず、ゆっくり頑張ってください! 君にはまだたくさん時間がある!
残念ながら災害の発生を止めることはできません。
でも日本人のいいところはそこからの復旧・復興にとても協力し合えるところと、そこからの教訓を学ぶ謙虚さだと思っているので、そのたびに強くなっていくと思います。実際今防災士の資格を取ってやっている方って兼任されていることがほとんどだと思います。でもそうではなくて防災士の方が「防災士であるから」という理由で雇ってもらえる。そんな制度があればもっと活性化するのではないかな?と私は思います。
【11】『障がい 』と『防災』
今回、「障がい」と「防災」という、切っても切れない、しかし触れるには少しデリケートなテーマについて取材をする事にした。
正直、取材や記事製作 など 特に最初の方は全てにおいてかなり迷った。なぜ…こんなに防災に直結しているのにみんな触れないのか。もちろん始まる前から少しは予想していたが、それ以上のものがそこにはあった。一言たった一言…間違うだけで誤解を生んでしまう。そうなってしまってはせっかくの松村さんの熱い想いが台無しになる。
初めて本格的な取材をし、実名で相手の方の想いを読者の方に分かって貰えるよう記事として書き上げる。
こんなに難しいものか と正直圧倒されていた。…だが、こうして思うのも松村さんが言っていたように社会が作ってしまっている物の見方があるからであり、変えていくべきものなのだとふと、気づいた。もちろんそれが正解かどうか、この記事の書き方であっているのか?そんな事はこうして書いている今であっても分からないし、恐らく皆さんがこの記事を読んでいる時も分かっていないだろう。しかし、その中でもひとつ確かに言えることは、僕は自分らしさを軸に自分の言葉で伝えるということを大切にしてきたということである。
これからもたくさん迷いながら、悩みながら書いていきたい。