私の『いえのごはん』~食への愛の原点は母と祖母の手料理にあり~(朝原令)

remember117, remember117_30年

「食」で私の身体、そして人生は成り立っている。そりゃ人間なら誰でもそうだということは分かっています。生きているのだから、食べて栄養を蓄えることは当然です。しかし、私は「食べること」に言葉では表現しきれないほどの価値を感じているのです。友達に食について熱心に語っていると、決まって「そんな食に情熱持ってる人はおらんで。」と言われるほど。そういえば、そのとき決まって話すことは「母と祖母の手料理」についてでした。「私の食の原点はこれや。」当たり前すぎて、21歳の今、初めて気が付きました。母と祖母の手料理が、私の食への愛を爆発させていたのです。
私は幼い頃から、母と祖母が作る栄養バランスの良い、彩り鮮やかな美味しい料理が大好きでした。正直、「外でごはんを食べるんやったら、家で美味しいごはんを心行くまで堪能したい。」というのが本音です。もちろん、家では再現できない手の込んだシェフの料理も美味しいですが、私にとっては母と祖母の手料理が世界一です。だから、もし災害に遭って避難するとなったとき、一番辛いことは「母と祖母の手料理が食べられなくなること」だと即答できます。災害が多い昨今、「この手料理を毎日美味しく食べられている」ということがどれほど幸せなことなのか、日々身に染みて感じています。
そこで、美味しいごはんを作ってくれる母と祖母に改めて感謝するとともに、私を育てた2人の手料理に関する様々な物語の一部をご紹介したいと思います。

#1. 卵焼き(made by 母)
『お弁当のスタメン』

家庭によって卵焼きの味付けは様々。家の卵焼きはだし、みりん、そして牛乳を混ぜた甘めの味付けが特徴。小さい頃は卵のとろっとした触感が大嫌いで、いつも焦げ目が付くくらい、中までしっかり火をいれた卵焼きを作ってもらっていました。今では逆に中がじゅわっ、とろっとするくらいがお気に入りになり、「これも成長の証なんやろな。」と感じています。
小・中学校のお弁当にはスタメン出場の卵焼きは、時間が経っても美味しさは変わらず、「うちの卵焼きが誰のお弁当に入っている卵焼きより1番美味しい!」と、勝手に闘争心を抱いていました。いつも旬のフルーツを母がお弁当に入れてくれていましたが、そのデザートの前の〆は、卵焼きとふりかけご飯でした。大好きなものは最後に取っておく習慣は昔から変わらないのだな、と今になって実感しています。
そして20歳を過ぎ、「もし私が1人暮らしをするようになったら、この卵焼きを食べられなくなるんか。」と寂しく感じるときが多々ありますが、目分量でも母の卵焼きが作れるよう、今のうちに教わっておこうと決心している私なのでした。 おしまい 

#2. ハンバーグ(made by 母)
『巨大肉汁爆弾』

よく食べる4人家族のために、母はハンバーグを作るとなると、1キロのミンチ、そして飴色になるまで炒めた大量の玉ねぎを用意していました。冷たい状態のミンチと生卵を使うため、特に冬の時期は「手がかじかむー!!」と声に出しながら、心をこめて粘りが出るまで混ぜている母の様子が印象に残っています。そして「もはや爆弾やん!」と思うほど大きく成形され、焼かれたハンバーグはアルミホイルに包んで夜まで休憩させます。肉肉しいハンバーグの匂いに負け、「休憩させんと今すぐ食べたい!」と手を出したくなるのですが、そこは我慢。なぜなら、グリルでもう一度熱をいれて出来上がったハンバーグが最高に美味しいことを知っているからです。ナイフを入れると、「ナイアガラの滝や。」と言いたくなるほど、肉汁があふれ出てくるのです。その肉汁とキノコが入った濃厚かつ甘めのデミグラスソースが相まって、「ご飯が何杯あっても足らへんわ。」と、何度も炊飯ジャーに駆け込んでいました。周りにはふかし芋や人参グラッセ、ブロッコリーが添えられ「美味しいのはもちろんやけど、彩りが良くてますます食欲が湧くわ。」と、母の気遣いに感謝していました。
私は家に帰ったとき、夜ご飯がハンバーグだと分かると「ほんまに嬉しい。ママのハンバーグ世界一!」と嬉しさを爆発させるのですが、父と兄はいつもと変わらない様子なので「もっとテンション上がるやろ。」と心の中で反発していました。食事のときも、いつものように「学校でこんなことをした。」「会社でこんなことがあった。」と近況報告をしている家族ですが、どの話も耳に入ってこないくらい私はハンバーグに夢中になっていました。
そんな世界一美味しいハンバーグですが、より美味しく感じられるときがあります。それはお弁当に入っていたときです。「冷めたら美味しくなくなるんちゃうん。」と言いたくなるところですが、特に運動会でお昼ごはんに食べるハンバーグは絶品で、「冷めてもジューシーさとデミグラスソースの甘さは顕在や。」と、口いっぱいに頬張り、午後からのリレーに向けてエネルギーをチャージしていました。リレーでゴールテープを切ったときは、「ママのハンバーグのおかげや。」と、毎回身に染みて感じていたのでした。 おしまい

#3 茶碗蒸し(made by 祖母)
『宝石箱』 

2月の節分には、恵方巻と茶碗蒸し。3月のひな祭りには、ちらし寿司と茶碗蒸し。手巻き寿司パーティーをしたときも、茶碗蒸し。昔はその味が苦手だった私も、今では無くてはならない大切な1品になっています。祖母は「こんなすぐできるし簡単やで。」と口癖のようにいいますが、かなり手が込んでいることを私は知っています。 
出汁と卵液から作ることはもちろん、エビや穴子、鶏肉、ゆりね、彩りにほうれん草を使うなど、下準備がたくさんあります。年中行事やお祝い事で祖父母と一緒にご飯を食べるとき、手伝いをする傍らで祖母の茶碗蒸しづくりを観察していると、「おばあちゃん、いつのまに茶碗蒸し作ったん?」というほど、手際が良いことに驚かされます。だからといって、味が損なわれることはなく、程良い出汁の甘みと具の旨味を引き出した唯一無二の茶碗蒸しが完成するのです。まさに宝石箱。しかも、他の人が同じように作っても、祖母の茶碗蒸しには敵わないことが不思議でたまりません。家族全員が「お寿司を食べてお腹いっぱいやのに、〆の茶碗蒸しも完食しちゃうんよな。」と、その美味しさに惚れ込んでいるのでした。それと同時に、「ママもいつかはこの味を受け継いでほしいな」と、私は母に少しプレッシャーを与えているのでした。 おしまい

# 煮魚(made by 祖母)
『おばあちゃんちにやってきた新鮮魚』

「ご飯何がいい?」そう聞かれたときは決まって、「お魚がいい!」と即答するほど、祖母の魚料理は絶品です。中でも、生姜をたっぷり入れた煮魚はNo.1の美味しさ。魚をただ煮た料理だと侮ってはいけません。この美味しい煮魚が出来上がるまでには様々な祖母の工夫が施されているのです。
まず、テニスや絵手紙など多彩な趣味を持つ祖父が、出かけたついでに新鮮な魚を買ってきます。祖父も煮魚が好きなせいか、それによく合うガシラやメバルを無意識に選んでくるようです。祖父は無言で部屋の扉を開け、買ってきた魚を机の上に置くと、ここからは祖母の出番です。「おじいちゃんは買ってくるだけでええね。」と2人で愚痴をこぼしつつも、祖母は慣れた手つきで魚の下処理をしていきます。「どうやってするん?」と聞くと、「ここをこうして、ああして、出来上がり。」と見せてくる祖母に、「これは慣れなんやな。」と感心するばかりです。
その後はもちろん、目分量で調味料を加え、甘めの味付けに仕上げてくれます。吹きこぼれないようにずっと見守っておくことも欠かせません。煮魚のときは、茄子のおひたしや油揚げの煮びたしなど、祖母渾身の一品も用意してくれます。「効率よく、しかも栄養を考えて料理ができるのは流石やな。」と、毎度毎度感動の嵐。魚の上にこれでもかと乗った生姜のスライスとともに、ぷりんぷりんの身を頬張ると、体全体の疲れが吹っ飛び、幸福感で満たされます。
私のおすすめは少し煮汁を含ませた身をご飯に混ぜて食べるスタイルです。思う存分に味わった後、大量の小骨が残ったお皿を見ると、次は何の煮魚にしてもらおうかなと、早くも楽しみにしている私なのでした。 おしまい