経済産業省に聞く(玉井雄貴)
私は少し偏った考え方をしていた、ような気がする。というのも今回の取材で、「なるほど、そういう考え方もあるのか」と、何度も納得したからだ。
実は私はかつてキャッシュレス決済のヘビーユーザーだった。500円ほどしか持たずに街中へ出たり、近くのコンビニに行く際はスマホだけだったりしたのである。そんな私がこのリメンバー117に参加してからというもの、災害時におけるキャッシュレスについてよく考えるようになった。「今のままキャッシュレスが加速すると、災害の時に現金がなくて物が買えない人が以前より増えるんじゃないか?」
このような不安を抱えて、今回私は経済産業省キャッシュレス推進室の松野さんに大きく分けて二つの質問をした。
支払い手段の多様化
一つ目は「私たちが災害時に向けてできる備え」だ。やはり現金を多めに持ち歩く事しかないのかという私の考えをぶつける。すると意外にも「支払い方法の多様化を図ることが重要だ」という返答だった。
「もちろん現金を持っておくことも大事ですが、現金だけ、というのもリスクになります。家が火事になったり、浸水したりする可能性もあるからです。ですから現金に加えて、キャッシュレス決済手段を持っておくこと、つまり支払い手段の多様化を目指すことが重要だと我々は考えています」
たしかに停電などで災害時にキャッシュレス決済が機能しない可能性もある。しかし必ず機能しないかというとそうではないだろう。その際にもしかするとキャッシュレス決済が使用できて助かった、という人が出てくるのかもしれない。もちろん現金をある程度持っておくにこしたことはないが、決済手段が1つだけよりは複数あるほうが安心な気がする。
消費者の安全と安心
二つ目は、「キャッシュレス促進にあたり、政府が注意している点」だ。
「キャッシュレスの促進は、消費者にとって安全・安心であることがとても大切であると考えています。そのため昨年から、一般社団法人キャッシュレス推進協議会とともに”災害時に強いキャッシュレスのあり方”について検討を重ねてきました。また高齢の方にもキャッシュレスを使っていただくために、ポイント還元事業などで周知を行っています」
実際に一般社団法人キャッシュレス推進協議会のホームページを見てみると、想定される災害パターンを考え、各災害パターンにおけるキャッシュレスの弱点とその克服・対策方法について検討が行われていることがわかった。このように私たちの知らないところでキャッシュレス について協議されている事を初めて知った。
正直まだまだ災害時のキャッシュレス化の課題は克服されているとは思えない。昨年の千葉の台風の時にも、お金に関することで困った方がいたというのは事実であるからだ(前回の記事「会計は紙に書いて」参照)。
普段の買い物をキャッシュレスで決済することは便利だと思う。ただ、以前の私のようにそれに頼りすぎるのはよくない。手持ち500円で外に出るなど、ありえない。現在の私は意識して現金を持ち歩くようになり、普段は5000円程度を財布に入れるようにしている。
普段当たり前に使っているものが、当たり前でなくなる。その瞬間は、災害が起こるとほとんど必ずくる。そして南海トラフは30年以内に70〜80%の確率で発生すると言われている。いつ起こってもおかしくない。そんな現状だということを再認識し、自身の日々の勘定について振り返るのもよいかもしれない。「明日は我が身」なのである。
▶︎前回の記事 「会計は紙に書いて」(玉井雄貴)