会計は紙に書いて(玉井雄貴)
災害時に実際に現金に関して困ったことはあったのか知りたくて調べていると、あるブログに出会った。それは台風15号で被災した大学生の方のもの。すぐに連絡を取り、スカイプでインタビューを行った。
「唯一空いてたセブンイレブンは紙で会計してて…」
「フェリーで千葉から神奈川まで現金を下ろしに行ってた人もいて…」
「現金を持っていなかった友達には自分の分を貸したり…」
台風15号の被害にあった大学生の岡本優河さんの口からは、そんなエピソードが飛び出す。住んでいたシェアハウスの屋根は飛び、もうそこには住めなくなってしまった。
沖縄の旅行から帰ったその日の夜に被害に遭ったという岡本さん。だからたまたま現金を多めに持っていたそう。「当時はなぜか物資が来るのが遅くて、多分店長さんが機転を効かせたのか街に一つだけあるセブンイレブンはオープンしてましたね。でも他の地域はやってないコンビニが多かったらしくて、全然違う地域からも来てました。なので人がめちゃくちゃ並んでました。停電しているから冷凍のものとかはだめだったけど、缶詰とか保存の効くものはまだ売っていて。もちろんレジで会計はできないからお客さんに計算してもらって、店員さんが紙に書いて会計するみたいな状態でした。電卓もなかったので」
やはり停電が起きるとそうなるのだ、と改めて考える。デジタルが機能しなくなると当然アナログなもので代替されるのである。停電が紙とペンと現金で決済する世界を生む。
災害によって決済手段がアナログ化された時、そこでは現金のみが使用できることとなる。当時はたまたま現金をいつもより多く持っていたが、岡本さんの周りはそうではない人が多かった。「現金を持っていない友達とはお金を分け合って、後から返してもらうみたいな感じでしたね。そのとき僕は、やっぱり現金ってすごい大事だなって感じましたね。キャッシュレスはめっちゃ便利なんですけど、ああいうふうにいざという時に現金がないと…」
また発生当時、携帯の電波は飛んでいなかったそうだ。もし仮に店の電気は使えたとしても、どのみち電波がないため電子決済は利用できなかったのである。「1日目の朝はぎりぎり使えたけど、その後全くだめで。だから情報が一切入ってこないというか、何が起きてんのかわからない感じだった。ラジオをつけても特にそこから得られるものはなくて。給水車があそこに来てるっていう情報とかも人伝に聞いた。だから情報の伝達力も弱いなっていう印象でしたね」
ならば私たちは事前にどんな対策が打てるのだろうか。「うーん、やっぱり普段から意識して現金を持ち歩くぐらいしかできないんじゃないですかね。僕はそれくらいしか思いつかないです」
僕もそれしか思いつかない。
▶︎前回の記事 キャッシュレス×災害2(玉井雄貴)