音楽を楽しむ心を~ボランティアって意味あるの?~(佐治千恵美)
台風で浸水した家でのボランティア作業がテレビに映った時、住民の方は言っていた。「本当に助かります。ありがとうございます」と。
災害関連のボランティアと言えばがれき撤去が浮かぶ。がれき撤去のボランティアは震災直後の人手が足りないときに必須だ。災害ボランティアには他に祭の運営や写真洗浄、楽器演奏などが存在する。このような団体は災害ボランティアとして必要なのだろうか。生活するのに必ず存在しないといけないものではない。
そこで今回は、阪神・淡路大震災をきっかけに誕生しちんどん屋の活動をする神大モダン・ドンチキ 座長 内藤賢一さんに話を伺った。
10月某日at 大学の食堂
どんな容姿の方だろう?LINEでのみ連絡を取っていたから、相手の容貌を知らなかった。
行きかう人皆に視線を向けてしまう……お、半纏みたいなのを着た人が来た!彼に違いない!
正解だった。
衣装の一部ですか?と聞いたら、「何を着ていけばよいかわからなかったんで、一様普段着でも着られる羽織を着てきました」と。なんて優しい方だろうか。
地域の方・学生が一緒になって子どもたちを元気に
―まず初めに神大モダン・ドンチキの結成について教えてください!
内藤さん:2000年にできました。それまではちんどん屋ではなく仮装して鳴り物を持って子供を元気づけるために地域の方や学生と一緒になって活動していたそうです。で、やるならちゃんとやろうよ、ってことで結成されたみたいです。
―阪神・淡路大震災が起きてから発足まで5年空いていますね?
内藤さん:震災の翌日から炊き出しや物資の搬入などの活動を行っていた先輩がのちに団体として立ち上げたんです。
―炊き出しなども!今でも震災に関する活動をやっているんですか?
内藤さん:今年まで3.11東日本大震災で被害を受けた大船渡の復興ちんどん祭に参加したり石巻でも色んな所を周ってにぎやかしをしました。
阪神・淡路大震災を機に音楽活動だけでなく炊き出しや物資の搬入も行っていた。必要物資を届けるだけでなく、周りの方を元気にしたい思いがちんどん屋という活動につながったのだろう。そして、一時的に必要な活動と違いちんどん屋の活動は震災が起きてから5年経っても必要とされ団体になった。
今も東日本大震災の被災地で活動することがある。人を元気にしたい思いは受け継がれているようだ。
お客さんとの距離
―どうして神大モダン・ドンチキに入ったんですか?
内藤さん:元々高校までバンドのまねごとをやっていまして、大学でも同じようなことがしたかったんです。
新歓に行ったらちんどん屋を見て、ブースにはいかなかったんですけど、ある時「体験おいでよ」って呼び込みをやっていて。行ってみたら同じ寮の人がいて、その人とすでに2回会っていて、「君、この前会ったよね」とか言われて。いつの間にか仲良くなっていて入りました。
確たる思いがあって入ったわけじゃないんです(笑)あとは衣装が気になりましたね。メイク面白そうだなって。
―音楽をやりたくて入って……今はボランティア意識が強くなったりしました?
内藤さん:ボランティア活動としては「ありがとう」って言ってもらえるのは嬉しいです。
他の音楽系の団体と違うのは、お客さんとの距離が近いこと・直に反応をもらえること・すごいなでなくなつかしいなという感想がもらえること。その反応が活動理由になっている面もありますね。
―逆に、ボランティアゆえの悩みってあります?
内藤さん:衝突が有りましたね。
一回生のとき、お店の宣伝の依頼で近くの商店街にある割と仲良くしている新規オープンの店の宣伝を頼まれたんです。商店街がにぎやかになるからやるべきという意見と、お店の宣伝周りはプロがやっていることだから僕らがやるべきことではないという意見で揉めていたことがあって。
インタビューで強く感じたのは、神大モダン・ドンチキのボランティア精神。音楽活動と聞くと派手なイメージが強い。ちんどん屋は見た目こそ派手だが、普段の姿・活動への思いは優しさで溢れていた。
店の宣伝を頼まれた時に、アマチュア団体であることとまちの活性化を天秤に掛けて揉めていた。ボランティアの難しさってまさにそこだと思う。もし特定の人に価値を提供したらそれはもうボランティアとは違うのではないか。
音楽を楽しめる心をこちらから作る
―ボランティアとしてどのように役立っていると思いますか?
内藤さん:最低限の経費はいただかなければならない。ただ、プロだと結構お金が掛かるんです。福祉施設は場所によってはお金が厳しいですけど、そういう施設の利用者に喜んでもらえる手段としてパフォーマンスを提供しています。
私たちはプロではなくアマチュアなんですけれども、それを生かして上手くプロとのすみわけができているのではないかな、と思ってます。
―アマチュアとしてのよさが!ただ、音楽系のボランティアは被災地で行うべき だと思いますか?
内藤さん:時期によるとは思います。
震災の起きた最初期に行っても仕方がないですけど、生活ができるようになって、でも心が痛むときに寄り添う形で、音楽としての楽しさ以外にもノスタルジーや雰囲気全体の楽しさがあって、心の余裕がなくても楽しめるようなものだと思っています。
―“心の余裕がなくても楽しめる”?
内藤さん:ちんどん屋は宣伝がメインだから、音楽を楽しめる心をこちらから作ることができるフォーマットにしているんです。にぎやかなイメージがあるんですけど、鐘、アコーディオンの音は悲しげな音なんですよね。
「音楽を楽しめる心をこちらから作ることができる」印象的な言葉だった。
一般の音楽活動はお客さんに来てもらう。ちんどん屋はあくまでこちらから行って何かする。
依頼は受けるが依頼するのは施設のスタッフの方。実際に披露するのは利用者の方。観客に音楽を聞く・楽しむ心を生み出さないといけない。
心を作る活動は被災者が元気になるきっかけになるだろう。辛いときには共感できる曲を聞く。しかし。共感できる曲・暗い曲ばかりを聞いていると現状に浸ってしまう。明るい曲を聞くことで笑顔になったり、次の一歩を踏み出せる。
ちんどん屋には人を笑顔にし次の一歩を踏み出させるエッセンスが詰まっているのではないか。
*神大モダン・ドンチキ
2000年に結成されたちんどん屋サークル。1995年に起きた阪神・淡路大震災で被災した人たちを元気づけるために立ち上がった有志音楽隊をルーツに持つ。
神戸を拠点として、自治体・商店街のお祭り・介護施設等のイベントに参加しちんどんのリズムと華やかなメロディーでお客さんを巻き込みながらその場を盛り上げている。大船渡や石巻の祭りにも参加している。
Twitter @modan_dontiki
Instagram dontiki_chingdong
*ちんどん屋
人目をひく服装をして、鉦(かね)や太鼓、三味線・クラリネットなどの楽器を鳴らしながら広告・宣伝を行う職業の人々の事(出典:日本文化いろは事典)
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